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日本医学会2019中部見聞録

2019/4/28平成最後の日曜日、数十年ぶりに名古屋駅を降りた。

名古屋駅からタクシーで15分から20分(2500円)ほどかかって、名古屋国際会議場に到着した。

 まずチェックインし、30,000円の会費と10,000円の資料代と5,000円の産業医講習会参加費はすでに振り込んだから、変わったブルーの名札入れと名札を受け取り、さらに別の部署で貧弱な布ふくろに入れている抄録(要旨ともいう)や携帯傘などを貰った。

 さて、すでに同時に20前後の講演が開始していた。まず、話題の新薬、画期的な新薬、新断薬というセクションに行ってみたが、テーマは例のオブジーボの講演中だった。そのあとのVEGF阻害薬、認知の脳病理、PCSK9阻害薬なども興味があったが、立ち席だったため、諦めてアカデミア発医薬品開発の現状と課題という講演を覗いてみた。すでに第3演題が始まっていた。演者の東大薬学部名誉教授・創薬機構の長野哲雄氏が、東大における大学と民間製薬企業との連携で数十万個の化合物から有効な新薬をヒットする事業を紹介した。数百万個の化合物からもわずか数十個をヒットするが、その中でちゃんと薬品として出せるのはさらに10以下しかないことは印象的だった。また、東大は研究施設を学内外の研究者にも開放しているそうだ。

 次の演者は京大の名誉教授、メディアカルイノベーションセンター長である成宮周氏から京大と製薬会社あるいはその他の大学と数十個の合同研究組織を作っていることを紹介したが、ちょっと多すぎるのではないかという印象だった。

 この講演の後、もう一回先ほど話題の新薬と同じ会場に戻り、合併症を予防する新薬というテーマのセクションに戻ったが、やはり満席で立ち席だった。進行中のはちょうど例のリブレの話で演者は以前も業者招待講演でCGMで売れっ子になっている慈恵教授の西村理明氏だった。あまり新鮮味がなく立つのも辛いうえ、次のテーマは骨粗鬆症の新薬以外はアレルギー性鼻炎の減感作療法やPOCT(point of care testing つまり迅速診断)、DOAC(プラザキサ)と中和抗体の話でよく知っている(と自分が思う)内容だったため、退室した。

 メイン会場であるセンチュリホールで、はやぶさの生み親であるJAXAの川口淳一郎氏の講演を少し聞いたが、医療との関連性より挑戦というテーマだった。冗談も交えていたが、冗談のほうが目立った印象だった。

 ランチョンセミナーはもともと「日本から革新的な医療機器を創出するには、シリコンバレーから学ぶ」というテーマーで、演者は池野文昭氏という医師からアメリカに無一文で渡って、スタンフォード大で医療投資ビジネスで成功した変わった経歴をもつ先生

の講演を聞きたかったが、受講券の配布場所に気が付き遅れたためもらえず、ちょっと失礼だが、糖尿病学会の大御所、座長順大名誉教授河盛隆造氏、演者東大教授門脇孝氏で、いつもの大日本のトルリシティ主催のDMの日本臨床試験J-DOIT3の紹介の講演に変えた。この臨床試験

は2006年から開始した日本初で7万人のDM患者と15万の対象者という大規模なもので、2016年まで、平均8.5年で、強化治療群(A1c<6.8%、BP<123/71、LDL-C<85)と従来ガイドライン群(それぞれ7.2%、 129/74 104)との比較で、主要評価項目(心筋梗塞、脳梗塞、死亡)が19%減少傾向から補正後24%有意に抑制したというものだった。

講演のなか、理化学研究所や琉球大学、東京大学などの研究チームは、2型糖尿病患者1万5,463人の「一塩基多型」(SNP)を解析し、2型糖尿病の発症に深く関わる7つの遺伝子領域を突き止めたことも言及した。これら7つの遺伝子領域(CCDC85A、FAM60A、DMRTA1、ASB3、ATP8B2、MIR4686、INAFM2)のなかでKIF11、GSK3B、JUNはそれぞれががんや白血病などに対する治療薬として、いずれも臨床試験中の薬剤のターゲット遺伝子で、これらの薬は2型糖尿病治療に適応できる可能性があり、新たな治療薬開発の一助となる発見だという。将来糖尿病の治療はそれぞれの患者にあったオーダーメイド医療の可能性を示唆した。

 午後は人工知能が切り開く未来医療というセクション、あるいは国産医療機器の開発の現状と課題というセクションを聞くという選択肢があったが、AIの方の抄読には専門用語がやや難解だったため、国産医療機器を選択した。

 座長の阪大名誉教授・国立循環器病研究センターの妙中善之氏と次の公益法人医療機器センター理事の中野氏の講演は、国の政策の羅列でつい眠ってしまうほど退屈であったが、心臓カテーテル用ワイヤで年商500億円、国内シェアトップで70% 海外シェア40%である朝日インテック社長宮田昌彦氏の企業発展史は目が覚める内容だった。同社は、さまざまなワイヤが主製品である。それには最近ゴルフシューズの主流であるワイヤ式靴紐ボアのワイヤから内視鏡生検用ワイヤなどが含まれ、主製品は心臓カテーテル用ワイヤである。この分野への参入はたまたま日本のトップの心臓血管専門医から、バイパス術しか治療できなかった冠動脈慢性閉塞に使えるカテーテルの希望を聞いて挑戦し、最終的に医師の繊細な手技に対応できるコイル型ワイヤの開発に成功し、一気に世界的なシュアを獲得した。それを聞いていると、以前は外科手術しか治療法がなかった疾患に対し、今では薬と治療技術の進歩でどんどん内科医が外科医を追い出すようになっているなあと思った。自分が以前外科で手を出していた胃潰瘍も今では全く手術する必要がなくなったことや、先日御殿場市富士病院関連の講演会で昭和大学の医師が心臓弁膜のカテーテル置換術を講演し、浜医第一外科の後輩、富士病院心臓血管外科の寺田君がオペがどんどんなくなっていくことを嘆いていたことを思い出した。

 続く演者は前記池野氏同様医師を経験してから渡米し、シリコンバレーで医療機器への投資のビジネスマンに変身した内田毅彦氏で、日本の医療機器市場の赤字が続く原因はシリコンバレーのようなインプリメンテーションがないということを力説した。氏の会社は一見公営機関のような名前である。JOMDD日本医療機器開発機構でありながら、株式会社がつく。 同社のHPを覗くと役員に若手精鋭がそろいている中、元J&J、元DeNA社長、元FDA審議官のほか、前記の池野文昭氏と特別顧問として慈恵医大の循環器外科教授大木隆生氏の名前もあった。

 産業医の研修まで少々時間があったため、産業展示・メディカルメッセを廻ってみた。点滴台のポールに装着できるコンセントやフックなどの小物は実に素朴なもので、カインズホームにもPRしてみたらとアドバイスした。カメラ付きの喉頭鏡はよくみられるものだが、挿管チューブの通りが悪いので使えないものだとコメントした。25万円もするワンタッチ遠近両用メガネのセールスマンがドイツ人風アメリカ人だったので、ついアメリカ製と思って英語で話しかけてたら、製品は三井化学だった。製品は欲しいと思っている。最後に除菌タオルディスペンサーというものはレンタルで月々2000円といわれ、使えそうと思った。

 その後の産業医の研修講義は一転して町工場の作業環境など、すごく身近なテーマだった。講義のあとぎりぎりのタイミングで帰りのこだまに飛び込んだ。

 今回の名古屋日本医学会は実に多くの興味ある話題があって、本当は1日目の27日に休診して参加し、そして29日の月曜も本庶教授と山中伸弥教授両ノーベル受賞者の講演を拝聴し、その後徳川美術館に足を延ばしかったが、消化不良になりそうで早めに引き上げた。28日にもその他多くの内容について受講したかった。また、参加すべき内科医会と臨床内科医会にも出席すべきだったが、シャトルバスでも20分、往復40分もかかるポートメッセなごやが会場だったため諦めた。

 ネットで世界が瞬時に結ぶ今日、大勢の聴衆を1か所の地点にたくさんの時間や金額を使って集めながら、それぞれが希望する内容が手に入らない状態は、はっきり言って時代錯誤であると感じた。

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