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 以 上説明したのは、細菌やウイルスなど病原体の場合における免疫の働きですが、今度はアレルギーの場合を説明しましょう。アレルギーと、先ほど説明した病原 体に対する免疫反応はどのように違うのでしょうか?

 最も大きな違いは、免疫反応の場合、外から侵入してきた病原体が破壊されるのに対して、アレルギーの場合は我々 のからだの組織が壊れてしまうことです。しかし、アレルギーと病原体に対する反応は基本的にみな免疫反応です。 一般的にアレルギーの病気というの は、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、薬物アレルギー、じんましん、接触性皮膚炎などがあります。

 学者たちはアレルギーの病気を大きく4つのタイプ(型)に分類しましたが、この中で最も一般的に流行っているのは、第1型のアナフィラキシー反応と第4型の遅延性過敏症です。舌をかみそうな発音をもつアナフィラキシー反応は、先に列挙したほとんどのアレルギー病を含んでいます。

 さて、以上感染症、つまり病原体が身体に侵入してきた時の場合と、アレルギー反応の場合を説明しましたが、実は最近さまざまの研究で、いままで一般的によそからの病原体やアレルギー原と関係ない病気も、ほとんど免疫反応と関係していることが分かってきました。

 例えば、高脂血症です。食べ過ぎや運動不足が関係していると思われている病気ですが、実は免疫と関係しています。高脂血症はおもにコレステロールが異常に高い「高コレステロール血症」と、中性脂肪が高い「高中性脂肪血症」、さらにコレステロールと中性脂肪両方が高いものなどがあります。さらにそれぞれ異常の程度などによって、6つのタイプに分けられます。この高脂血症がもたらす身体の障害は動脈硬化でです。動脈硬化は皆様が承知の通り、心筋梗塞や脳梗塞など致命的な病気のもとになります。したがって真剣に予防しなければなりませんが、この高脂血症から動脈硬化へ変化していく中で、先に出てきたマクロファージやT細胞なども重要な役割を果たしているのです。それを簡単に説明すると、脂肪(脂質)が増えすぎると動脈の壁にくっついてしまいます。このできあがった脂肪の塊は「プラーク」と呼ばれ、プラークが動脈から崩れ落ちて血液の流れによって心臓や脳の大事な血管へ飛ばされ、詰まってしまうと梗塞が起こります。

 

このプラークは実はマクロファージとT細胞から作られているサイトカインによって崩れ落ちるのです。つまり免疫反応は単純に外からの異常に対するものではなく、身体の内部に発生した異常に対しても起こっているのです。このように免疫反応はさまざまな病気と深く関係しているため、現在世界中の医学者とバイオ研究者たちが懸命に免疫の研究に取り組んでいます。

 

 免疫と無縁であるように聞こえる漢方についても考えてみましょう。
 免疫のいろいろな組成には「サイトカイン」という非常に膨大で複雑なタンパク質(あるいはタンパク質より小さいペプチットという物質)の大軍団があります。

 われわれの体はこの「サイトカイン」の働きでさまざまな影響と上手くバランスを調節し、生存していることになります。これらのサイトカインには、次に掲載されている図に示されているように、さまざまな名称があり、それぞれ複雑な働きを持っています。

 最も有名なのはウイルス性肝炎の治療に使われているインターフェロンです。また、癌の治療や予防に使用されている腫瘍壊死因子(TNF)もよく耳にするようになっています。サイトカインは、はじめは基本的に白血球から造られていると考えられていましたが、近年、白血球以外のさまざまな細胞からも造られていることが分かってきました。

 今後医学・薬学などの分野で、サイトカインについての研究はますます大きな比重を占めるようになっていくでしょう。


 ところで、漢方と免疫とを結び付けたのはこのサイトカインです。世界各地の研究者、特に日本の研究者が多種多様な漢方薬について、サイトカインにどのような影響を与えているかを研究し、大きな成果が得られています。

 

 いくつかの例を挙げてみましょう:

 

1,補中益気湯の肺胞マクロファージのIL-12産生機能への作用
2,黄連、黄柏など常用生薬の抗炎症効果:IL-8産生抑制作用
3,小青竜湯のサイトカイン産生への抑制作用
4,気管支喘息患者のサイトカイン産生に対する柴朴湯の抑制作用
5,麦門冬湯の喘息モデルモルモットのIL-6への抑制作用

 

 この他にも夥しい数の研究成果が挙げられていますが、その内容は専門的なので、ここでは省略します。一言で言えば、【数千年人々が経験的に「このような症状ではこの草や樹木の根っこが効く」のように使われてきた漢方薬は、その基本的な原理・・・いわゆる漢方薬の薬理】が現代科学的に分析されるようになってから、【サイトカインに対するさまざまな促進または抑制作用によって、からだのバランスを調節することである】ということが徐々に分かってきたということです。

 現在研究者たちは何万種類もある植物性や動物性、鉱物性の漢方薬をひとつひとつ地道に研究し、どのようなサイトカインに作用しているかを調べています。その他、すべての漢方薬には共通な働きがあるかどうかについても懸命に研究を行っています。


 現代薬の非常に単純な薬理作用と比べて、漢方薬の働きはその組成と同じように、比較的複雑で、作用するポイントも多く、効いてくる時間もかかるわけであると考えられています。
 患者さんにとって、免疫や漢方薬の薬理云々については、恐らくあまり興味がないであろうと思いますが、漢方薬については、数千年の歴史に残された伝統や、幾分迷信めいた信仰に近いものではなく、現代の科学的な見地から見ても、ちゃんとした理にかなっている存在であることを、本文を通じて少しでも理解していただければ幸いであると考えています。

免疫 異常に対するからだの重要な反応  Vol 2

 例えば、喘息、じんましん、花粉症を含むアレルギー性鼻炎などは、みな第1型のアレルギーである。また、クスリによる急激なショック状態も、アナフィラキ シーショックと呼ばれこの型に属する。この第1型の特徴は通常数分、遅くても数時間以内といった、非常に速い時間で反応が起こることである。このほか第2 型や第3型のアレルギーも速い反応が起こります。 

 それらに対して、第4型はわりに遅い反応であるといわれています。通常2,3日ほどかかります。そのなかで一番有名なのは、接触性皮膚炎と、おなじみのツベルクリン反応です。予防接種の時にツベルクリンを打ってから48時間後、つまり二日目に結果を見に 行くのもその道理です。アレルギー反応の場合に活躍(?)する細胞は、主に第1型は肥満細胞(補助的細胞)、好酸球などですが、裏方ではリンパ 細胞の中のT細胞の役割も認められています。また、第4型の反応はおもに大食細胞(マクロファージ)とT細胞(特にT細胞の中Th1細胞と呼ばれる「兄 弟」)の二人舞台です。

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