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高齢者心不全の予防におけるBNPの有用性

 高齢者死亡の原因として心不全の割合が高いことは自明ですが、その予知及び評価のため、最近BNPの有用性が強調されています。BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド:brain natriuretic peptide)は環状構造を有する32個のアミノ酸残基から構成され,心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)に続き、第二の利尿ペプチドとして豚の脳から単離同定されました。

 ヒトでは主に心室、一部は心房から分泌され、心臓の負荷が増えたり心筋の肥大が起こると増加します。BNPは利尿作用、血管拡張作用、レニン・アルドステロン分泌抑制、交感神経抑制、心肥大抑制などの作用があり、心筋を保護するように働くホルモンで、主に体液量や血圧の調整に重要な役割を果たしています。

 

 健常人における血漿中BNP濃度は,極めて低いですが、慢性及び急性心不全患者では重症度に応じて著明に増加し、BNPの測定は心不全の病態の把握に重要な意義を持っています。異常値(主に高値)を示す疾患は急性心不全、慢性心不全、狭心症、急性心筋梗塞、腎不全、高血圧症、心臓弁膜症などがあります。現在は、「心不全の病態把握」のための月1回の検査が保険適応となっています。

 心疾患のスクリーニングとして有用と考えられますが、その目的での保健適応は現状できません。つまり、「心不全の疑い」では、保険診療では検査できないのです。

 

検査結果がでるのに通常3-7日かかります。血漿BNPの基準値は18.4pg/ml以下ですが、心臓病以外でも軽度の上昇はおこりうるので注意が必要です。しかし、「心疾患なし」では通常100pg/ml以下である。100pg/ml以上なら心臓に負荷がかかっている状態と捉え、何らかの心機能障害が生じていると考えてよいでしょう。しかし、BNPは心機能低下の重症度を調べる検査であって、単独で心臓病の有無をスクリーニングする検査としては不十分です。狭心症や心筋梗塞、頻拍性不整脈の約半分がBNP40以下であったという報告があります。また、BNPの変動は遅い為、急性心筋梗塞の場合発症6時間以内ではBNPはまだ上昇していないことが多く見受けられます。心房細動では洞調律の時に比べて、30-120ほど高く出るとあります。

 

 

【心不全がある時、BNP値が200以下を治療目標とします】

 

 

 慢性心不全の外来管理において、症状(労作時の息切れ、安静時の呼吸困難、主に足の浮腫)、身体所見(肺ラ音、浮腫、肝腫大)、体重、?胸部レントゲン(心拡大、肺うっ血、胸水)とともに、BNP値が重要なチェック項目となっています。
 BNP値は胸部レントゲンや心エコー検査、症状、身体所見よりも心不全の軽快や増悪に先行して変動することが多いので、とても有用です。また、BNP400以上は心臓突然死が多いとされるので、こうした場合、できれば何らかの治療追加が必要です。

 

 

 

【心不全と他の疾患との鑑別に有用です】

 

 

 心不全と気管支喘息などの肺疾患を合併した患者は時々みられます。COPDや在宅酸素療法を行うような呼吸器疾患でも心房細動や何らかの心機能低下の合併がないかぎり、BNPはあまり上昇しません。低酸素血症を呈する重症呼吸困難でもBNPは100前後のことが多いです。一方、心不全で息切れなどの自覚症状がでるのは、BNP200以上がほとんどで、通常300以上です。救急外来の患者でBNP100以上を心臓病の疑いありとすると、感度90%、特異度76%、正診率83%と呼吸困難患者を心不全とほかの疾患との鑑別に大変有用です。しかし、狭心症や心筋梗塞などでは、多くの場合心不全の合併がないので、BNP値は正常か軽度上昇のことが多いです。外来患者の2年間の心臓死・心疾患による入院をみると、100以下は1%、100以上は19%、特に500以上は44%と極めて高率でした。疾患別にみると、虚血性心疾患ではよほどの高値でない限り、BNPで予後を予測するのは困難です。

 当院では2002年から明らかに心不全を有する患者さんの他、潜在的に心血管障害のリスクのある患者さんに定期的にBNPを測定しています。実施する前平均8~10名/年70歳以上の高齢者がうっ血性心不全を発症し入院加療が余儀ない状態が発生していましたが、BNPの検査を積極的に実施してきてから急性心不全による緊急入院(来院時重度な心不全を確認し即日入院した症例が平均1~2名/年に減少しました。その結果として大幅に高齢者生命予後に重要な影響を与えている急性心不全の発症を阻止しています。
 今後当院では、引き続き75歳以上で高血圧など心血管障害リスクの高い疾患を有する患者さんに対する
BNP検査のルーチン化を実施するほか、さらに80歳以上心不全発症の頻度が高い非心血管障害リスク患者へのルチン検査を拡大してしきたいと考えていますが、保険診療上うっ血性心不全の診断を有しない患者さんに対して保険適応がないため、実施は非常に困難です。しかし、すでに多くの医療施設がBNP検査を高齢者健康診断の項目に採用しています。従って自費でBNPの施行も検討すべきであると思います。 

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