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胃癌検診はバリウム検査がリスク検診(ABC検診)に取って代わる時代に

 

 近年ピロリー菌と胃癌との関連性についての研究や胃内視鏡検査技術の向上について、胃癌検診についての考え方が大幅に変わってきました。

 

 ヘリコバクター・ピロリ菌は1983年に発見されて以来、胃潰瘍、胃癌との関連についての研究が30年にわたり、数々の研究者によって解明されてきました。わが国では特に北大の浅香正博教授がその第一人者と評価され、ヘリコバクター・ピロリ菌研究の唯一の国際学会「欧州ヘリコバクター会議」(2014年9月12~14日、マドリードで開催)の最高賞である「マーシャル・ウォレン賞」を日本人として初めて受賞されました。

 

 浅香教授はピロリ菌研究の第一人者ですが、受賞の理由はピロリ菌の除菌と継続的な内視鏡検査を組み合わせた「胃がん撲滅計画」を提唱、除菌の保険適用拡大に努めるなど社会啓蒙活動が評価されたことでした。

 

 先日幸いにも浅香教授の静岡日赤における講演を拝聴することができましたので、ここでその内容を要約して報告いたします。 

 浅香教授らは、早期胃癌で内視鏡治療をした患者505人について、治療後に除菌した集団としなかった集団とに分けて3年間追跡し、いずれも切除した場所とは異なる場所に胃癌が再発した人が出ましたが、除菌した集団はしなかった集団に比べて発症率が3分の1になっています。 つまり、感染者は胃が萎縮するなど症状が進んでいるため、除菌しても発症を完全に予防することはできませんが、胃癌になるほど症状が進んだ人でも除菌をすれば発症が3分の1に抑えられることから、胃癌にまで至っていない人なら、除菌で発症は3分の1以下に抑えられることを示しています。

 

 胃癌の殆どはピロリ菌感染症であります。過去、塩分やストレスなどが原因とされてきましたが、ピロリ菌の長年の感染で胃の粘膜が萎縮して、胃癌が発生することが明らかになってきました。

 浅香教授の講演で示されたグラフでは、ピロリ菌に感染したことがない人は胃がんを発症することはほとんどありませんが、感染した人は慢性胃炎を罹患し、その後さまざまな経路で胃癌とその他の疾患を発病することが示されています。

 除菌の効果は胃の萎縮が進んでいない若いうちほど大きく、推計では男女とも30代までに除菌をすると、ほぼ100%胃がんにならなくなります。40代で除菌すると男性は93%、女性98%、50代では男性76%、女性92%、60代では男性50%、女性84%で予防できるということです。

 

 ピロリ菌は胃酸の分泌が未成熟の幼児期に感染し、成人では感染しないため除菌後に再び感染することはまずありません。

 浅香教授いわく、受診率が10%しかない間接バリウムエックス二次検診の方法を見直すタイミングに来ています。

 浅香教授が提唱する胃癌撲滅計画は、胃癌の死亡率が低い年代を除いた50歳以上が対象になります。ピロリ菌検査に加え、胃の萎縮を調べるペプシノゲン検査を義務付ける、すなわち「ABC検診」です。

 

 両検査で問題ない人は、ほぼ胃癌にならないため、以後の検診は不要です。ピロリ菌に感染しているが、胃の萎縮が進んでいない人は、除菌すれば胃癌発症の可能性は極めて低くなります。

 

 胃の萎縮が判明した場合、除菌をした上で定期的な内視鏡検査を実施すべきです。

 一方、偽陰性という状況があります。つまり萎縮が進みすぎるとピロリ菌の数が減り、検査では「なし」と判定されるが、これは癌になる可能性が最も高い状態です。

 現在、毎年約11万人が胃癌にかかり、年間の治療費は3千億円と推定されます。

団塊の世代が胃癌年齢を迎えたほか、高額な分子標的薬の導入などで年々の治療費は上がっており、2020年には5千億円を超える可能性があります。

浅香教授の推計では、撲滅計画を実施すると、受診率50%と仮定した場合除菌費用などに毎年約270億円かかりますが、20年を迎えても治療費は現行水準にとどまり、死亡者数は現在の年間約5万人から約3万人に減少します。

 その後はピロリ菌感染者数の減少とともに、胃がん発症者数もゼロに近づく見立てができます。

 浅香教授は「肝炎ウイルス対策を基本とする肝臓がんは死亡者数が急速に減っている。なぜ、胃がんはピロリ菌対策を行わないのかと講演で強調されています。

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